コラム記事「食における数字の向こう側 」
農林水産省の発表によると、日本の食料自給率はカロリーベースで37%(令和2年度)である。一人1日当たりの供給熱量は2,269キロカロリーである。その内国内での供給熱量は843キロカロリーであり、残りの1426キロカロリーは国外から供給されていることになる。日本は、ほとんどの食料を国外に頼っているのか?もしそうであるならば大事件ではないか。国外からの食料供給がストップしたら、国内で食料がなくなってしまう。このような事態は避けなければならない。以上のような背景から“食料自給率を上げなければならない”とよく警笛がならされるのである。
しかし、スーパーを見ていただきたい。そこに陳列されている農産物、食肉、加工品の数々。その63%は外国産のものであろうか。ほとんど、国内産であろう。数字と実態があっていないではないか。このカラクリはどういうことなのか。
まず、食料自給率の低下は、食生活の変化にも起因する。戦後から日本では欧米型の食生活へ変化した。具体的には、肉類、その可能品、バター、チーズ、牛乳、卵などの動物性タンパク質、油脂類中心の食生活に変化した。つまり、カロリーが比較的高い動物性タンパク質、油脂類が国内で供給できているかが大きな問題となる。外食の多くはこれらを使用している。
つぎに、飼料供給自給率である。牛、豚、鳥などを育成する飼料を国内で供給できているのか、国外で供給できているか、の指標である。令和2年度の飼料自給率25%であり、75%は国外の供給に頼っている。
単純に計算してみよう。スーパーに並んでいる牛肉が100%国内で生産されたものとする。しかし、その牛を育てるために使用した飼料の75%は国外産とする。と、すると以下の計算式になる。
100%(国内で育成された牛肉)✖︎75%(牛が食べた国外飼料)=75%(国外飼料で育成された牛)
したがって、国内で子牛から成牛になり、食肉になったとしてもその内75%が国外飼料で育成された場合、100%のうち75%は国外からの供給になる。国内供給は25%しか計上されないのである。
このように見てみると、スーパーでは国内産が多いにもかかわらず、食料自給率が低いことも頷ける。カロリーベースの食料自給率が低いと大声で叫ぶのは良いとしても、その数字がどのように算出されたのかという過程を考察することが重要であろう。
昨今では、飼料自給率を反映しない食料国産率やヴァーチャル・ウォーターの議論など多様な過程に焦点を当てた指標がある。この数字は一体何を表すのか、その向こう側を見る必要がある。数字はわかりやすい一方で、人をたびたび困惑させるのである。
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